大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和46年(ネ)154号 判決

控訴人

中村直仁

代理人

梅沢秀次

外一名

被控訴人

日興信用金庫

代理人

関根栄郷

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一、本件の事実関係についての当裁判所の判断は原判決理由一、二と同一であるからこれを引用する。当審証人馬場信勝の証言は右判断を左右するものではない。

二、当裁判所は、民法四六七条二項にいう「債権譲渡ノ通知……ハ確定日附アル証書ヲ以テスルニ非サレハ……対抗スルコトヲ得ス」との規定は債権譲渡の対抗要件を「確定日附ある証書による通知」を必要とすることを定めたものと解する。

そして、そこにいう「確定日附ある証書による通知」とは、債権譲渡あるいはその通知(発信又は到達)のいずれかについて確定日附があることを意味し、通知が債務者に到達したことのみにつき確定日附を必要とするものでないと解する。たとえば、債権譲渡証書に確定日附が附されていれば、その通知がいつなされたかにつき確定日附が附されていなくても、逆に通知がいつなされたかについて確定日附があれば、債権譲渡証書に確定日附が附されていなくても、いずれも「確定日附ある証書による通知」となると解する(なお、前者の場合通知に右債権譲渡証書を添えることを要する)。けだし、「確定日附ある証書による通知」をもつて債権譲渡の対抗要件としているのは、債権譲渡あるいはその日時を譲渡人、譲受人、債務者間で仮装し、日附を遡らせることを防止することを主眼としているのであり、したがつて債権譲渡のあつたことを譲渡証書そのもの、または通知書(承諾書)に確定日附を得ることにより公的に証明することができ、その日附によつて少くともその日以前に債権譲渡のあつたことを第三者に対し主張できるものと解するのが民法六四七条二項の趣旨に最もよく適合するというべきである。そのためには、右のように債権譲渡証書か、通知(発信又は到達)か、いずれか一方に確定日附を要求することをもつて足りるからである。更に、債権譲渡証書にも、通知(発信又は到達)にも、確定日附を受けている場合にはそのいずれか日時の早いものを対抗要件として主張できることとなると解する。

三、本件においては、債権譲渡証書には、公証人小野田常太郎の昭和四四年二月一四日附の印が附されており、更に内容証明郵便による右債権譲渡の通知には新宿郵便局長の「同月同日一二時から一八時に差出し」の証明印があり(前記引用にかかる原判決理由および前記甲第一、二号証により認められる)、これら証明印はいずれも確定日附といえることは明らかである。

四、すると、本件債権譲渡と、本件仮差押命令の優劣は、右確定日附に示された日時と仮差押命令の効力発生の日時の先後によることになるところ、仮差押命令が第三債務者に送達されたのは昭和四四年二月一四日午後四時五分頃であり(原判決理由一)、前述のように債権譲渡証書に附された確定日附は「同年同月同日」附で時刻の記載はなく、通知に附された確定日附の日時は「同年同月同日一二時より一八時」であるから、右確定日附と仮差押命令の第三債務者への送達との対抗要件としての先後関係は明らかにすることができないというほかない。

控訴人は確定日附上同日であるときは、現実に通知のなされた時刻と送達時刻の前後により、あるいは現実に確定日附のなされた時刻と送達時刻の前後により優劣を決すべきであると主張する。しかし「確定日附ある証書による通知」は債務者以外の第三者に対する対抗要件と解すべきであるから、確定日附に表示されている日時のみを基準として先後を決すべきであつて、確定日附に時刻まで記載されていればこれにより、もし日附しか記載されていなければ日附によりこれを決するほかないのである。よつて控訴人の右主張は採用しがたい。

以上説示のとおりであるから控訴人の本件債権譲渡をもつて本件仮差押命令の執行債権者である被控訴人に対抗できるとの主張は採用し難い。

五、ところで、第三者異議訴訟において第三者が執行の排除を求めうるためには、自ら先ず、執行の目的にかんして執行債権者に対抗できる権利を有することを立証することを要すると解すべきところ、既述のように控訴人はその立証をなしえないのであるから、控訴人の本訴請求はその余の判断をまつまでもなく失当というほかない。(なお、控訴人の当審における主張二にそう証拠はない)

六、控訴人の当審における主張一、3について付言する。前述のように、本件債権譲渡と本件仮差押命令とは対抗要件上先後関係は不明であり、そのため控訴人は第三者異議の訴によつて右差押命令の執行を排除できないのであるが、一方被控訴人も右仮差押命令が右債権譲渡人に優先することを主張することはできないのである。したがつて被控訴人は、本件債権(仮差押の対象となつている債権)につき仮差押さらには本執行をなしうるにせよ、独占的に右債権によつて自己の債権の満足を受けることはできず、結局差押の競合、配当要求のあるときに準じて配分し解決するほかはないものと解する。

よつて本件控訴を棄却し訴訟費用につき民訴法九五条八九条により主文のとおり判決する。

(谷口茂栄 荒木大任 田尾桃二)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例